中国人観光客の回帰に後押しされた日本の観光ブームと、過去およそ40年間で最高水準のインフレが、日本のホテル投資に拍車をかけている。
調査会社MSCIリアル・アセッツによると、外国人投資家は2023年に日本のホテル案件でこれまで20億ドル(約2900億円)を投じており、アジアの事業用不動産の他のセクターと比べて最も多い。これは昨年の14億ドルをすでに上回った。
観光客による旺盛な宿泊需要と価格の上昇が、投資家にとって理想的なシナリオを生み出している。インフレ環境下では、ホテルはリアルタイムで宿泊料金を変更して価格設定を調整できるため、低い賃貸価格が何年も固定される可能性のあるアパートやオフィス、倉庫よりも魅力的だ。その上、円安は観光客や投資家にとって日本をより魅力的な国にしている。
台湾を拠点とするプライベートエクイティー(PE、未公開株)ファンド、エンビジョン・インベストメント・マネジメントのケニー・ホー最高経営責任者(CEO)は「われわれは新たな買収の機会を積極的に探している」と指摘。「日本に海外からの観光客が増加するにつれ、ホテル市場も成長し、多様化してさまざまなタイプの宿泊需要を満たすことができるだろう」と語った。
新型コロナウイルス禍前に比べ、訪日客の消費は増えている。観光庁のデータによれば、そのほとんどは宿泊や買い物、飲食に使われている。長年のデフレの後、生鮮食品とエネルギーを除いた物価「コアコアCPI」は1981年以来の高水準で上昇している。
これらの要因は、ホテル部門に拡大の余地があることを示唆している。不動産データプロバイダーのコスターによると、訪日客数もホテルの稼働率もまだ19年の水準を下回っているが、今年上半期の1日平均宿泊料金は19年上半期の料金を平均16%上回っている。
米投資ファンド、ブラックストーン・グループ不動産部門日本代表の橘田大輔氏は今月、ブルームバーグとのインタビューで日本の不動産市場は「引き続き非常に魅力的」とした上で、特に一段のインバウンド需要が見込めるホテルなどに好機を見いだしていると語った。
先月、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントやアブダビ投資庁(ADIA)、シンガポールのSCキャピタル・パートナーズによって結成されたコンソーシアムが、日本でリゾートホテル27件のポートフォリオを約9億ドルで取得した。
カナダの不動産投資ファンド、ベントール・グリーンオークは今夏、「ザ・リッツ・カールトン福岡」の買収に合意し、米PEファンドのKKRと香港を拠点とするガウ・キャピタル・パートナーズは3月、「ハイアット リージェンシー 東京」の買収を発表している。
一方、ホテル業界には課題もある。不動産サービス会社のサヴィルズによると、特に日本の慢性的な人手不足は、ホテルなどのホスピタリティー業界においてより深刻であり、ビジネスと収益性を妨げる可能性があるという。
不動産を購入しようとする投資家にとって、市場はひっ迫しており、競争は激しい。MSCIによると、海外投資家によるホテルへの投資は過去10年近くで最も速いペースを記録し、日本のホテル買収に占める海外投資家の比率は14年以来、最大となっている。
主に外国人顧客向けサービスを提供するジャパン・プロパティ・セントラルのゾーイ・ワードCEOは、日本のビジネスホテルをできるだけ早く購入したいという予算1億ドルまでのシンガポールの顧客数人と物件を探している。
「私たちが直面しているのは供給が本当に少ないことに加え、誰もが主要な観光地で同じようなホテルを探しているため競争がかなり厳しいことだ」とワード氏は語った。